梶山 龍誠

株式会社ビケンテクノ 代表取締役副社長
アサヒビールシルバースター(X LEAGUE)現役プレイヤー
(平成20年2月時点の記事です。)

「梶山さんのところは、若くて活きのいいひとが多いね。みんな何かスポーツ経験者なの?」。

私たちのグループ企業には、スポーツ選手、元トレーナー、なかにはコーチの経験もある人材がいるのですが、他の会社から見ると非常に魅力的な人材らしいのですね。僕自身がアメフットを続けているから、そういう人材がたくさん集まっているように思われているらしく、「そんな人をウチにもまわしてよ」と、よく云われます。

しかし会社が求めているのはそういう人材の素質であって、その会社がどうやって彼らを活かしていくかは、あくまでも仕事の内容次第です。
これからのことを考えると、そういう勤め先も人材も、ストックしている量が多ければ多いほど当てはめる選択肢が出てくる。テクノサービスは、そういうプラットホームになることを目指しているのです。

現在は個人的な人脈と繋がりでお世話をしていますが、これを会社としてシステムにすれば、もっと多くの人の支援も出来るし、より多くの企業にアクセスできる、その様に考えているわけです。

アスリートやトレーナーなど、スポーツに関わっている人で、この先はオフィスの事務職や営業職に就きたいとか、起業を考えていても、基本的なスキルがないとか、学生時代からの延長で機会を失って、いまさらどうやっていいかわからないという人が結構多いのではないか、と思います。

とあるスポーツチームのトレーナーをしている女性で、「将来的には事務職を希望しているのだけれども、どうしていいのかわからない」という方がいました。
本人は「いつもジャージを着てスポーツの現場を走り回っていて、正直、仕事は片手間でやっていた」と、そのことをとても気にしていたのですが、実際にパソコンや事務の初歩からきちんとトレーニングしていくと、すぐに彼女は身につけることができた。
要するにキャリアは関係ないわけです。実際は本人の意志次第。
当然、スポーツの現場を続ける場合は、休日やアフター5も含め、全て自己責任でやるべきだと思います。弊社の場合は私自身がそうですから(笑)。
「今日はこの仕事が終わってから練習に行く」とか、「練習が終わって、会社に戻ってきてからやる」とか上手にやりくりしている人も多いわけですから、決して不可能なことではないはずです。

スポーツ選手は仕事関連のことで「チョット違うなぁ」と迷いが出ると、仕事のパフォーマンスも落ちるし、プレーのパフォーマンスも落ちてくるのですね。
その時、その人がしかるべき相談先を知らないならば、たとえば我々が希望する職場を提案するとか、あるいは先方との条件交渉を代行するなど、そういうことがスポーツ選手には特に必要だと思います。
本人が直接交渉するのは、やはり難しい。特に自分を売り込んだりするのが苦手なシャイな人物が比較的多いので、うまく言えなかったりします。
だから我々がエージェント役になって、新たな道を斡旋させてもらうと。そのためには、たとえば「前の職場でこういう所でつまずいた」、「こういうことで上手くいかなかった」というような情報があると、我々も取り組みやすいですね。

求職している人の本音のところは、なかなか聞き出せない。特にスター選手ほど、プライドは高いです。大観衆の中で拍手喝采を浴びた経験のある人間が「実は私パソコンが使えないのです」とは、なかなか言えないものです。
スポーツ選手、アスリートと言うのは、個人のキャリアを尊重しながら、気持ちを理解できる人がお世話をしないと、上手くいかない場合が多いですね。

ただ一流のアスリートは、結果を出すことに対しての意識が高い。そのためのプロセスや準備や心構え、そういった能力は仕事でも同じように発揮出来ます。
また、あまり多くを語らなくても、すぐに動ける行動派が多い。先にからだが動く。それが何より企業にとってはありがたいし、希少価値があります。
逆にデメリットとしては、一流選手ほど選手としての成功体験が続いているから、それが良い方に出るのならいいのですが、悪い方に出ると一匹狼になってしまい、やり直そうとするときに結構苦労もしますね。
相手に良い印象を持たれている間はいいのですが、一回失敗すると、目立つ存在なだけに周囲からの反動が大きい。そういう部分での葛藤があると思います。

近年はスポーツ選手を企業が“一生まる抱え”するような時代ではなくなってきました。 選手として引退する。そうなったら冷たいもので、「あとはもう勝手にしてくれ」、「猶予期間1年の間に自分で探せ」というケースもよく見かけます。しかも、そんな通告が突然やって来ますから非情なものです。有名なスポーツチームでも、仕事は『フリーター』という選手が結構多いのも現実です。

いずれにせよ『仕事』は長続きしないと見えてこない。だから、企業が期待していることと、本人ができることは、必ずしも一致していない。あるいはタイミングが合わない時もある。そこを相互支援できるような役割、つまり人間接着剤ですね(笑)。テクノサービスは、それを他の派遣会社や紹介会社との差別化にしたいと思っています。

たとえばアスリートには、入りやすくて出て行きやすいような職場も必要なのです。
「今は現役選手としてバリバリやっているので、4~5年はこういうスタイルで、それから10年先にはこうありたい」というようなライフプランをきちんとヒアリングし、必要なケアを考えていきます。

実は最近の不動産業界でも全く同じようなことがあるのです。
普通にオーダーすると、不動産は『一生持つ』ことを基本に建築計画や修繕計画を考えるのですが、最近は3年後には売ることを前提に買う人が増えてきています。つまり3年後に売るときに、一番パフォーマンスが高いことがいいわけですね。だからそういうオーナーさんには、最初からきちんとヒアリングしておかないと間違ったプランを出してしまうわけです。
つまり時間軸に基づいた相手のニーズを聞き、プランを立てる。いわゆるコンサルタントやコーディネーター的な役割も出来ることが求められているのです。

この媒体を人材に置き換えれば全く同じことが言えます。だから人材紹介は不動産でいう賃貸仲介・売買仲介。
本人が何をしたいのか、企業が何を求めているのか、互いのニーズを引き出しながら仲介役になっていく。『人』の場合は、そこに感情や環境などが加味されるから、心のフォローがいちばん難しい。
特にスポーツ選手の場合、現役の時と引退した後、あるいはコーチ経験の有無でも変わってきますから、そういったことをきちんとフォローできる仲介役でありたいですね。

私たちは、どちらかというとアスリートの味方です。企業には様々な選択肢もあるし、いつでもリカバリーが出来る。しかし個人となると、リカバーしようにもなかなか出来ないケースが多いわけです。
企業のほうは、会社の与える任務を遂行してくれる人であれば、別にアスリートじゃなくてもいいわけです。スキルを身につけている人材であればいいのです。
ですが、アスリートというのは、それだけで勤めているわけではない。「実は生活のため」、「自分の好きなことを続けるため」と言う気持ちが、気持ちの中にあるのではないかな、と思います。

でも、『本質』は決してそうじゃない。
競技の最中に仕事のことを考えないのと同じぐらい、仕事の時は競技のことを考えない、自分がいまやるべき仕事に全身全霊を注ぎ込める、そういうメンタルトレーニングを日頃からしない限りは、結局どちらにも大成しない。その切り替えがきちんと出来る人というのは比較的何でもこなせるものです。
たとえばNFLの超一流プレーヤーで、優秀なビジネスマンはざらにいる。ただ日本の場合は、まだそれがスタンダードじゃないのですよ。
人が生きている時間、与えられている時間は同じですから、使い方とメリハリをきっちり、自分で線を引けることが大切です。
よくデキる人と言うのは、大変でも、それをむしろ楽しんで出来るような心構えを持ち、そのスイッチの切り替えが上手い人なのではないか、と思います。

多くのアスリートの迷いは何かというと、仕事で業績あげないといけないのに、スポーツを続けていること自体が「悪」。悪いことだと心のどこかで思っていることですね。「どちらかを選択しないといけないのじゃないか」と。
でも、どちらも一回辞めたらその先はないし、また戻そうと思ってもなかなか戻れない。これは仕事でもスポーツでも同じなのですが、そういう部分の葛藤をいつも持っている。でしたら「どっちもやったらええやん」なのです(笑)。

どちらかというとアスリートは、「何か成果を得ようとするには、何かを犠牲にしなくてはいけない」と妙にストイックに思いこんでいますね。でも、そんな必要は全くない。両方の果実を追って両方とも掴めばいい。両方がダメになるのなら、やっぱりプロセスのところで具合の悪い箇所があるはずで、それにきちんと向き合うことが、自分に責任をとるということなのです。
何かを犠牲にしてチャレンジし、成果を得られなかったら「俺はこれだけ犠牲を払ってやったのだからしかたない」という言い訳で、自分自身を納得させている。でも、「そうじゃない!」と強く言いたいですね。
「その果実を得られなかったのは、次に進むための出発点だ」と、自分の中のマイナス思考を最小限に抑えていくことが、自分の力を発揮できるステージを増やすことに繋がっていくわけです。

好きなことを選ぶのは、最終的に自分で責任を負わないといけないわけですから、そういう腹さえ決めていれば両方選んでもかまわないのです。
むしろ限られた時間の中で、きっちり自分が成長していけるようにモチベーションを高く保っている人じゃないとやっぱり上手くいきません。これはスポーツ選手としても必要なことです。自分が今いる場所で100%出し切る。その感覚は常に持って欲しいですね。

「君たちはすでに自由だ」。
いま迷っていること自体がもう次のステップに、次のステージに行く成長する過程ですからね。
だからいまは迷っているのではなくて「学んでいる」。
大いに学んで、あとは一歩を踏み出すだけ。
次は「何か」をしないといけないというのは判っているけれども、そこに行く勇気のないことが「人生の壁」として現れてくる。そこを逃げだすようなチョイスや、先送りにするようなチョイスというのは、両方ともマイナス思考だから、そうではないやり方を選んだ方が自分自身の成長に繋がる。なにより回避しないこと。一歩踏み込んでみると、新しい境地やステージが広がると思います。